2017.06.24 16:23|

八月の六日間


40歳目前、文芸誌の副編集長をしている“わたし”。ひたむきに仕事をしてきたが、生来の負けず嫌いと不器用さゆえか、心を擦り減らすことも多い。一緒に住んでいた男とは、3年前に別れた。そんな人生の不調が重なったときに、わたしの心を開いてくれるもの―山歩きと出逢った。四季折々の山の美しさ、怖ろしさ。様々な人との一期一会。いくつもの偶然の巡り合いを経て、心は次第にほどけていく。だが少しずつ、けれど確実に自分を取り巻く環境が変化していくなかで、わたしは思いもよらない報せを耳にして…。生きづらい世の中を生きる全ての人に贈る“働く山女子”小説!


山の風景から醸し出される自然美や感じることの表現は言うまでもないが、きつい山登りの最中に「どうして来たんだろう」と後悔する心理描写に共感しながら読み進んだ。著者の北村薫さんはああ見えて山登りもしてるんだと疑いもせずに。ところが、彼のインタビューに『編集者に登山女子が多く、彼女らから話を聞いて書いた』とあった。へぇ~そうだったのかとたまげた。それぐらいに迫力あったし、私が山に登る雰囲気に近かったのだ。

この本には山好きと、本好きの要素が満載されていて全く私のために書いてもらったようで嬉しい。

主人公は山に行く時にリュックに2,3冊の本をしのばせる。本の紹介や彼女の周囲に居る女友達や山で知り合った人らとの会話。亡くした友人への切ない想い。

単独登山家として有名な加藤文太郎の言が懐かしかった。新田次郎の小説「孤高の人」のモデルとなった人だ。『臆病な心は先輩や案内に迷惑をかけることを恐れ、彼の利己心は足手まといの後輩を喜ばず、ついに心のおもむくがまま独りの山旅へと進んでいった』

文太郎の心中を察している件に、見つけられなかった自身の心を言い当てられた気がして再読しようと思った。

高校時代に所属していた演劇部のエピも心打たれた。高校時代に主人公が脚色したシェークスピアの「十二夜」を演劇大会に持って行き、審査員の大御所が上演された演目をすべて観ずに(居眠りしていた)評価されたことに不信感が募り、会場で指摘した主人公。それに応対した大御所の返事など興味深かった。

本が好きで山が好きなAに贈ろう!



2017.02.21 11:33|

流


何者でもなかった。ゆえに自由だった――。
1975年、台北。偉大なる総統の死の直後、愛すべき祖父は何者かに殺された。
無軌道に生きる17歳のわたしには、まだその意味はわからなかった。

1975年、偉大なる総統の死の直後、愛すべき祖父は何者かに殺された。内戦で敗れ、追われるように台湾に渡った不死身の祖父。なぜ? 誰が?17歳。無軌道に生きるわたしには、まだその意味はわからなかった。大陸から台湾、そして日本へ。歴史に刻まれた、一家の流浪と決断の軌跡。台湾生まれ、日本育ち。超弩級の才能が、はじめて己の血を解き放つ!友情と初恋。流浪と決断。圧倒的物語。




2015年夏に又吉直樹さんが「火花」で芥川賞を受賞した際、直木賞を受賞した東山彰良さんの『流』が気になっていて図書館にリクエストしていました。
それがやっと数日前に届き、引き込まれあっという間に読了。

ミステリー仕立てでありながら、台湾と中国を舞台とした骨太な作品にのめり込みました。
辻原登さんの「韃靼の馬」も好きだから、自らの読書傾向にも大陸物が好みなのかなと改めて気づかされました。

率直でピュアで負けず嫌い。権威や権力になびかず、祖父譲りの義侠(ぎきょう)心も持ち合わせていて、切ない恋愛も経験するし暴力ざたも起こすのですが、自分が何者なのと悩む青年が主人公です。台湾と中国の歴史的な関係も勉強できました。
昔、垣根涼介さんの『ワイルド・ソウル』を読んだ時の感想と似ているかもしれません。

先日、ブラジル人で日本を旅行しているカップルを車に乗せましたよ。

2016.08.23 15:26|


アマゾン川が逆流するポロロッカ現象が多摩川で起こるという怪しげな噂が、瞬く間に街々を呑み込んでいく。翻弄される工場の社長やサラリーマン、シングルマザー、カフェの店主たち。7編の短編が連作となっている。

とても興味深かったのは2話の田園調布を舞台にした徳大寺家の話だった。

徳大寺家のお手伝い・芳江が主人公。旦那様が脳梗塞で入院、そこの一人息子は高校卒業後に英国に留学し結婚しイギリスで暮らしている。豪邸に暮らしているのは70歳の母親だけだ。ある日ケンブリッジで息子の先輩で同じ大学寮にいた加納が訪ねて来た。当初は胡散臭いと感じていた芳江だったが彼に好意を持ち始めた。奥様も同じように加納を信頼しているふうー。ところが奥様の行動がおかしいことに気付き始める芳江。実は彼は巧妙な詐欺師で、奥様から一千万円をだまし取った。

騙されていると半ば感づいていたけれど振り込んだ奥様の言葉に共感する芳江。

『加納さんはそれほど困っていたのよ。あんないい人がそんな嘘をついてまで私を頼ってくれたのだから・・・。そんなに困っているのなら、私が自由にできるお金ぐらい役立ててもらいたいじゃない』

加納は、英国に骨を埋めるつもりの実の息子より親身になって、毎日毎日朝晩に電話をくれたという。

振り込みサギに遭う高齢者が絶えないのがいつも不思議だったが、理由は老境に入ってからの寂しさだったのだ。妙にしんみりと分からせてもらえた作品でした。


2016.05.07 12:08|

 

中高一貫の美心国際学園(BIS)で、SF小説を大好きな十五歳の内気な少女・空。ノンフィクションが好きでSFに理解のない同級生・武人からビブリオバトル部に誘われます。個性的な五人の仲間と活動を始めるが……。紹介書籍は多種多様、三度のビブリオバトル・シーンも臨場感たっぷりです。


最近、めきめき脚光を浴びて来たビブリオバトルです。

ビブリオバトルとは自分の好きな本を人前で紹介するというもの。昨日もラジオでやっていました。

装丁がラノベっぽくて誤想されがちですが、ビブリオバトル部員のそれぞれが取り上げた書籍は多方面に渡っていて興味深い作品が多々ありました。映画やコミックにしても同じく、偏見は自分の楽しみを閉じてしまい狭める結果になるので自分が損するだけで実にもったいない。亡き武人の祖父の書庫にあった旧いSF蔵書。それを見つけた空が感嘆の声をあげて一冊づつを手に取り解説していく所にドキドキ。もっと読んでおけば良かったジャンルだったと後悔するほど。フィクションの面白さを伝えようとして、ノンフィクション一辺倒の武人にターゲットを向けビブリオバトルが展開されていくのが良かった。

顧問の朝日奈先生が「世の中で最も危険な思想は、悪じゃなく、正義だ」という言葉にとても共感を覚えます。正義の旗を振りかざすと、同じ考え方でないものを一方的に攻撃し他を受け入れられずに、最も排他的になる怖れがあるからです。

山本弘さんは初めて知った作家さんでしたが、予想以上に深さがある本でした。


2016.04.29 11:56|
若冲


今年、生誕300年を迎え、益々注目される画人・伊藤若冲。緻密すぎる構図や大胆な題材、新たな手法で周囲を圧倒した天才は、いったい何ゆえにあれほど鮮麗で、奇抜な構図の作品を世に送り出したのか?

澤田瞳子著の「若冲」に耽読したのは2か月ぐらい前になるだろうか?コミックの「百日紅」を読んで以来、江戸時代の絵師に魅かれ”追っかけ”をしています。澤田瞳子さんは「狐鷹の天」でおなじみの作家さんです。狩野派とか全然嫌いなタッチの日本画でしたが、何故そんな風に描かれたのかを知れば知るほど、知識がなかったためとわかり、偏見で嫌ってた自分が恥かしくなりました。

実在する絵師なども登場し、どこまでが史実でフィクションなのか分からないのですが、実際に彼が描いた絵をみたいと思っていたら、タイムリーなテレビ番組がありました。

色彩への強いこだわりで用いた絵の具。その中でプルシアンブルーを使用したという説明。この色はプロイセンで造られた最初の人工顔料だったそうで、江戸の中期、長崎の出島に1キロしか輸入されなかったらしい。この稀少な人工顔料を、日本で最初に使用した画家が若冲だったとか。
次に感銘したのは『病葉』をも繊細緻密に描いていたこと。咲き誇る花々だけでなく、私だったら忌み嫌う立ち枯れた蓮や、虫に食われた汚い葉にも眼差しを向けてあった。

モネマネが光と影を描き出した印象派の頃より、若冲が1世紀も前に独学で到達していたことも驚きでした。





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