2017.02.21 11:33|

流


何者でもなかった。ゆえに自由だった――。
1975年、台北。偉大なる総統の死の直後、愛すべき祖父は何者かに殺された。
無軌道に生きる17歳のわたしには、まだその意味はわからなかった。

1975年、偉大なる総統の死の直後、愛すべき祖父は何者かに殺された。内戦で敗れ、追われるように台湾に渡った不死身の祖父。なぜ? 誰が?17歳。無軌道に生きるわたしには、まだその意味はわからなかった。大陸から台湾、そして日本へ。歴史に刻まれた、一家の流浪と決断の軌跡。台湾生まれ、日本育ち。超弩級の才能が、はじめて己の血を解き放つ!友情と初恋。流浪と決断。圧倒的物語。




2015年夏に又吉直樹さんが「火花」で芥川賞を受賞した際、直木賞を受賞した東山彰良さんの『流』が気になっていて図書館にリクエストしていました。
それがやっと数日前に届き、引き込まれあっという間に読了。

ミステリー仕立てでありながら、台湾と中国を舞台とした骨太な作品にのめり込みました。
辻原登さんの「韃靼の馬」も好きだから、自らの読書傾向にも大陸物が好みなのかなと改めて気づかされました。

率直でピュアで負けず嫌い。権威や権力になびかず、祖父譲りの義侠(ぎきょう)心も持ち合わせていて、切ない恋愛も経験するし暴力ざたも起こすのですが、自分が何者なのと悩む青年が主人公です。台湾と中国の歴史的な関係も勉強できました。
昔、垣根涼介さんの『ワイルド・ソウル』を読んだ時の感想と似ているかもしれません。

先日、ブラジル人で日本を旅行しているカップルを車に乗せましたよ。

2016.08.23 15:26|


アマゾン川が逆流するポロロッカ現象が多摩川で起こるという怪しげな噂が、瞬く間に街々を呑み込んでいく。翻弄される工場の社長やサラリーマン、シングルマザー、カフェの店主たち。7編の短編が連作となっている。

とても興味深かったのは2話の田園調布を舞台にした徳大寺家の話だった。

徳大寺家のお手伝い・芳江が主人公。旦那様が脳梗塞で入院、そこの一人息子は高校卒業後に英国に留学し結婚しイギリスで暮らしている。豪邸に暮らしているのは70歳の母親だけだ。ある日ケンブリッジで息子の先輩で同じ大学寮にいた加納が訪ねて来た。当初は胡散臭いと感じていた芳江だったが彼に好意を持ち始めた。奥様も同じように加納を信頼しているふうー。ところが奥様の行動がおかしいことに気付き始める芳江。実は彼は巧妙な詐欺師で、奥様から一千万円をだまし取った。

騙されていると半ば感づいていたけれど振り込んだ奥様の言葉に共感する芳江。

『加納さんはそれほど困っていたのよ。あんないい人がそんな嘘をついてまで私を頼ってくれたのだから・・・。そんなに困っているのなら、私が自由にできるお金ぐらい役立ててもらいたいじゃない』

加納は、英国に骨を埋めるつもりの実の息子より親身になって、毎日毎日朝晩に電話をくれたという。

振り込みサギに遭う高齢者が絶えないのがいつも不思議だったが、理由は老境に入ってからの寂しさだったのだ。妙にしんみりと分からせてもらえた作品でした。


2016.05.07 12:08|

 

中高一貫の美心国際学園(BIS)で、SF小説を大好きな十五歳の内気な少女・空。ノンフィクションが好きでSFに理解のない同級生・武人からビブリオバトル部に誘われます。個性的な五人の仲間と活動を始めるが……。紹介書籍は多種多様、三度のビブリオバトル・シーンも臨場感たっぷりです。


最近、めきめき脚光を浴びて来たビブリオバトルです。

ビブリオバトルとは自分の好きな本を人前で紹介するというもの。昨日もラジオでやっていました。

装丁がラノベっぽくて誤想されがちですが、ビブリオバトル部員のそれぞれが取り上げた書籍は多方面に渡っていて興味深い作品が多々ありました。映画やコミックにしても同じく、偏見は自分の楽しみを閉じてしまい狭める結果になるので自分が損するだけで実にもったいない。亡き武人の祖父の書庫にあった旧いSF蔵書。それを見つけた空が感嘆の声をあげて一冊づつを手に取り解説していく所にドキドキ。もっと読んでおけば良かったジャンルだったと後悔するほど。フィクションの面白さを伝えようとして、ノンフィクション一辺倒の武人にターゲットを向けビブリオバトルが展開されていくのが良かった。

顧問の朝日奈先生が「世の中で最も危険な思想は、悪じゃなく、正義だ」という言葉にとても共感を覚えます。正義の旗を振りかざすと、同じ考え方でないものを一方的に攻撃し他を受け入れられずに、最も排他的になる怖れがあるからです。

山本弘さんは初めて知った作家さんでしたが、予想以上に深さがある本でした。


2016.04.29 11:56|
若冲


今年、生誕300年を迎え、益々注目される画人・伊藤若冲。緻密すぎる構図や大胆な題材、新たな手法で周囲を圧倒した天才は、いったい何ゆえにあれほど鮮麗で、奇抜な構図の作品を世に送り出したのか?

澤田瞳子著の「若冲」に耽読したのは2か月ぐらい前になるだろうか?コミックの「百日紅」を読んで以来、江戸時代の絵師に魅かれ”追っかけ”をしています。澤田瞳子さんは「狐鷹の天」でおなじみの作家さんです。狩野派とか全然嫌いなタッチの日本画でしたが、何故そんな風に描かれたのかを知れば知るほど、知識がなかったためとわかり、偏見で嫌ってた自分が恥かしくなりました。

実在する絵師なども登場し、どこまでが史実でフィクションなのか分からないのですが、実際に彼が描いた絵をみたいと思っていたら、タイムリーなテレビ番組がありました。

色彩への強いこだわりで用いた絵の具。その中でプルシアンブルーを使用したという説明。この色はプロイセンで造られた最初の人工顔料だったそうで、江戸の中期、長崎の出島に1キロしか輸入されなかったらしい。この稀少な人工顔料を、日本で最初に使用した画家が若冲だったとか。
次に感銘したのは『病葉』をも繊細緻密に描いていたこと。咲き誇る花々だけでなく、私だったら忌み嫌う立ち枯れた蓮や、虫に食われた汚い葉にも眼差しを向けてあった。

モネマネが光と影を描き出した印象派の頃より、若冲が1世紀も前に独学で到達していたことも驚きでした。





2016.02.04 14:42|


時代物は長く敬遠してきた私だが、旧い白黒映画を観る機会に恵まれ呪縛から解放されたこの頃。
本作の新聞紹介に次の一節がありました。『女の自信は根拠を求めない。子供の頃から、ずっと目立たぬために周りを注視してきた私だから、そう見えるのかもしれぬが、女は根拠なしに、自信を持つことができる。その力強さに、男は惹きつけられる。男のように、根拠を失って自信を奪われることがない』
おっと待った、世の中には自信たっぷりの女性ばかりではありません。私なぞ劣等感の塊で生きながらえているようなもの・・・。
それほど云わせる作品を読ませてもらおう。読後に爪の垢を煎じて飲めるようなシロモノを発見できればもっけの幸いと図書館で借りました。

受賞作は全6編の短編集ですが、届いたのは『オール讀物』で、表題作の「つまをめとらば」の一篇のみが掲載されていました。

中心となるのは武家屋敷で隠居している56歳ぐらいの幼なじみのリタイアした武士どうし。3度の結婚に失敗した深堀省吾は不義を働いた妻の借金を払いながら戯作者として生計を立てている。もう一人の貞次郎は結婚歴なしで養子を雇い好きな算術を中心に貸本屋業を営んでいる。2人は10年ぶりに会い、たまたま貞次郎が家を探していて省吾の貸家に住むことになります。
貞次郎は所帯を持つ女を連れて来るといいながら一向にその風がない。
というのは、両者とも男同士の生活が意外と平穏だったから・・・。

2人が縁側でお茶を飲みながら話す挿絵は何てほのぼの。

IMG_20160202_0002.jpg

しかし、意味深な会話がー。
『爺二人の暮らしが居心地よくてな。なかなか女と暮らそうという気にはなれんのだ』『そうか』
『これまで衆道と聞くだけで忌避してきたが、男同士が連れ合いになると所まで考えが及ばなかった~。平穏を望むなら男と暮らすのがいちばんだが、男と連れ添うわけにはいかない。連れ添うとなれば女を選ぶしかない。俺のように所帯を持とうか持たないかと迷い続ける者はどうしたらいいものか』

そういいながら2人暮らしはしばらく続きます。

色んなしがらみが毒を生む。その毒を金に替えて生計をたててきた。しかし男同士の暮らしは平穏で毒が生まれず省吾は筆が進まなくなっているのに気づく。スポーツにハングリー精神が必要というのは知っていたけれど、創作にも必須かもしれませんね。
そして貞次郎は決断をする。
さてその決断はどうなるかは、それぞれが読んでからのお楽しみ!
映画にもなりそうですが、配役はどうなるか?
佐世という「罪のない童女のような顔を罪ではち切れそうな身体の上に乗せている」と表現された女性も登場します。
それに省吾の元妻も一筋縄ではいきません。
でも、省吾によると「ふつう」の女なんですってよ(笑)
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