2017.08.02 15:57|


明治39年春。昔は控え選手、今は小さな業界紙の編集長を務める銀平は突如、母校・一高野球部コーチにと請われた。中年にして野球熱が再燃し、周囲の嘲笑をよそに草野球ティームへ入団。そこへ降ってきた大新聞の野球害毒論運動に銀平は作家の押川らと共に憤然と立ち上がる。明治野球の熱狂と人生の喜びを軽やかに綴る痛快小説


ド真ん中の野球小説!

読み終えた後に知ったのだが、主人公の銀平のみが架空の人物で、それ以外の登場人物は大方が実在した人たちらしい。スポーツに疎かった私には、寧ろ逆で、万年補欠選手だった銀平(彼とて並みの人物ではない)の方が近しい。彼の家族で親父さん、妻、子供、妹、妹の亭主、長屋の住人たちとの日々に暮らしで交わされる会話に耳を傾けた。


中でも、主人公の銀平の幼友達で葬儀屋を営んでいる良吉の言葉がずしんと心に響きました。

「せっかく今生で巡り会った身体の力をうまく引き出して、心に添わせてやることなんだよ。俺はね、『幸せな最期』っていうのは、自分の身体をちゃんと使い切って死んだ人に言うもんだと思っているよ。金持ちとか出世とかそういう一通り一遍のことじゃなくてさ」

銀平の親父さんが銀平をたしなめた言葉

「人は求めに応じて働くのが本当だ。てめぇのように何がやりてぇかにほざいているうちは世間の立派な一員にゃあなれねぇのよ。相応の人物には必ず他所から役割が与えられる。与えられたらその役割を四の五のと言わずにまずこなせ。そこで使い物になってはじめて、己の道ってもんが開けて来るんだ」

銀平がコーチしているピッチャー川西君

「本当に才のない人間は、自分に才がない事すら気づけない。せやから正当な結果によって駄目をだされても、本人は分からないから不当な扱いを受けたと思い込む。挙句、自分はもっと評価されていいはずや、認められないのはおかしい、世の中不公平やと不平不満を募らせる。すべては自分が元凶なんだけど、自分も世間も見えとらんから始末に悪い」

若い頃に、上のような言葉を聞いたら素直に認められなかっただろう。

でも年を重ねて受けとめられるようになってきた。

「金にもならないのに、それほどの時間と人生をどうして費やするのか」の問いに

銀平や実在の押川春浪など、野球人でなくとも分かる気もするが、突っ走る勇気は私にはない・・・。



2017.07.07 14:01|

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なぜ金子みすゞは自殺したか。大正ロマンと昭和モダンの時代を生きた詩人の光と影。実弟・上山雅輔の日記に基づく、画期的伝記小説!国民的詩人・金子みすゞはいかに生きたのか。実弟・上山雅輔の目を通して描く、画期的伝記小説! 実の姉と弟でありながら、金子家と上山家で別々に育てられたみすゞと雅輔。互いを深く理解し、芸術を愛する友として過ごした青春時代、そして内に秘めたる恋心。姉はなぜ自ら死を選ぶこととなったのか――。後に脚本家となる雅輔が残した日記を読み解き、大正ロマンと昭和モダンの時代を生きた詩人の光と影に迫る、衝撃のドラマ。



1、 みすゞは童謡詩人として知られているが、私が知っていた『童謡』と本書で語られている『童謡』とは多少違った。童謡は大正中期から昭和初期に白秋、八十らがそれまでの文部省唱歌を批判して作成し運動によって普及させ、文芸的要素を多く含んでいたらしい。しかし童謡は読む文芸から唄う音楽となっていく。だから、金子みすゞさんの詩集を知り、童謡というより詩人のイメージが強く”童謡詩人”と呼ばれる所以が理解できた。


2、 雅輔が15歳の時に影響を受けた詩も印象的だったので掲載します。


只一人(後藤静香作 詩集『権威』より)


人生は

只一人行く旅ぞ。

最後の頼りは

淋しくとも自分だけである。

只一人行くべき自己と知ったとき

どうして粗末にされようぞ。

どうして充たさないでよかろうぞ。

どうして高めないでよかろうぞ。

3、みすゞの才能を最初に見つけた西條八十氏がヨーロッパ留学を機に衰退していく童謡を離れ、時代が戦争に呑み込まれる中で戦時を称えるような作風となり、終戦後は流行歌の作詞者として名高くなっていく変遷も興味深い。

4、実際は弟だった雅輔とみすゞの2人の関係性は複雑だっただろう。お互いライバルで励ましあいながら才能が開花しそうになると妬ましくもなる・・・。九州の片田舎では書籍や映画の話をできる者も少ない。

養父の松蔵は雅輔が放蕩しても不本意ながら経済的な援助を続けた。雅輔もみすゞの夫だった敬一も苦しくなると花街へ出かける日々ー、みすゞの周りの勝手な男どもに嘆きたくなる。

みすゞの世界はあまりにも狭すぎた。仙崎と下関から飛び出していたらもっと彼女の才能は羽ばたけただろうにと臍を噛む思い。みすゞが今の時代に生まれていたらとも考えたが、雅輔の妻になった容子は違う生き方。雅輔は妻・容子と娘らと共に劇団若草を立ち上げ、みすゞの遺稿集を出版し、世にみすゞの存在を知らしめている。



2017.06.24 16:23|

八月の六日間


40歳目前、文芸誌の副編集長をしている“わたし”。ひたむきに仕事をしてきたが、生来の負けず嫌いと不器用さゆえか、心を擦り減らすことも多い。一緒に住んでいた男とは、3年前に別れた。そんな人生の不調が重なったときに、わたしの心を開いてくれるもの―山歩きと出逢った。四季折々の山の美しさ、怖ろしさ。様々な人との一期一会。いくつもの偶然の巡り合いを経て、心は次第にほどけていく。だが少しずつ、けれど確実に自分を取り巻く環境が変化していくなかで、わたしは思いもよらない報せを耳にして…。生きづらい世の中を生きる全ての人に贈る“働く山女子”小説!


山の風景から醸し出される自然美や感じることの表現は言うまでもないが、きつい山登りの最中に「どうして来たんだろう」と後悔する心理描写に共感しながら読み進んだ。著者の北村薫さんはああ見えて山登りもしてるんだと疑いもせずに。ところが、彼のインタビューに『編集者に登山女子が多く、彼女らから話を聞いて書いた』とあった。へぇ~そうだったのかとたまげた。それぐらいに迫力あったし、私が山に登る雰囲気に近かったのだ。

この本には山好きと、本好きの要素が満載されていて全く私のために書いてもらったようで嬉しい。

主人公は山に行く時にリュックに2,3冊の本をしのばせる。本の紹介や彼女の周囲に居る女友達や山で知り合った人らとの会話。亡くした友人への切ない想い。

単独登山家として有名な加藤文太郎の言が懐かしかった。新田次郎の小説「孤高の人」のモデルとなった人だ。『臆病な心は先輩や案内に迷惑をかけることを恐れ、彼の利己心は足手まといの後輩を喜ばず、ついに心のおもむくがまま独りの山旅へと進んでいった』

文太郎の心中を察している件に、見つけられなかった自身の心を言い当てられた気がして再読しようと思った。

高校時代に所属していた演劇部のエピも心打たれた。高校時代に主人公が脚色したシェークスピアの「十二夜」を演劇大会に持って行き、審査員の大御所が上演された演目をすべて観ずに(居眠りしていた)評価されたことに不信感が募り、会場で指摘した主人公。それに応対した大御所の返事など興味深かった。

本が好きで山が好きなAに贈ろう!



2017.02.21 11:33|

流


何者でもなかった。ゆえに自由だった――。
1975年、台北。偉大なる総統の死の直後、愛すべき祖父は何者かに殺された。
無軌道に生きる17歳のわたしには、まだその意味はわからなかった。

1975年、偉大なる総統の死の直後、愛すべき祖父は何者かに殺された。内戦で敗れ、追われるように台湾に渡った不死身の祖父。なぜ? 誰が?17歳。無軌道に生きるわたしには、まだその意味はわからなかった。大陸から台湾、そして日本へ。歴史に刻まれた、一家の流浪と決断の軌跡。台湾生まれ、日本育ち。超弩級の才能が、はじめて己の血を解き放つ!友情と初恋。流浪と決断。圧倒的物語。




2015年夏に又吉直樹さんが「火花」で芥川賞を受賞した際、直木賞を受賞した東山彰良さんの『流』が気になっていて図書館にリクエストしていました。
それがやっと数日前に届き、引き込まれあっという間に読了。

ミステリー仕立てでありながら、台湾と中国を舞台とした骨太な作品にのめり込みました。
辻原登さんの「韃靼の馬」も好きだから、自らの読書傾向にも大陸物が好みなのかなと改めて気づかされました。

率直でピュアで負けず嫌い。権威や権力になびかず、祖父譲りの義侠(ぎきょう)心も持ち合わせていて、切ない恋愛も経験するし暴力ざたも起こすのですが、自分が何者なのと悩む青年が主人公です。台湾と中国の歴史的な関係も勉強できました。
昔、垣根涼介さんの『ワイルド・ソウル』を読んだ時の感想と似ているかもしれません。

先日、ブラジル人で日本を旅行しているカップルを車に乗せましたよ。

2016.08.23 15:26|


アマゾン川が逆流するポロロッカ現象が多摩川で起こるという怪しげな噂が、瞬く間に街々を呑み込んでいく。翻弄される工場の社長やサラリーマン、シングルマザー、カフェの店主たち。7編の短編が連作となっている。

とても興味深かったのは2話の田園調布を舞台にした徳大寺家の話だった。

徳大寺家のお手伝い・芳江が主人公。旦那様が脳梗塞で入院、そこの一人息子は高校卒業後に英国に留学し結婚しイギリスで暮らしている。豪邸に暮らしているのは70歳の母親だけだ。ある日ケンブリッジで息子の先輩で同じ大学寮にいた加納が訪ねて来た。当初は胡散臭いと感じていた芳江だったが彼に好意を持ち始めた。奥様も同じように加納を信頼しているふうー。ところが奥様の行動がおかしいことに気付き始める芳江。実は彼は巧妙な詐欺師で、奥様から一千万円をだまし取った。

騙されていると半ば感づいていたけれど振り込んだ奥様の言葉に共感する芳江。

『加納さんはそれほど困っていたのよ。あんないい人がそんな嘘をついてまで私を頼ってくれたのだから・・・。そんなに困っているのなら、私が自由にできるお金ぐらい役立ててもらいたいじゃない』

加納は、英国に骨を埋めるつもりの実の息子より親身になって、毎日毎日朝晩に電話をくれたという。

振り込みサギに遭う高齢者が絶えないのがいつも不思議だったが、理由は老境に入ってからの寂しさだったのだ。妙にしんみりと分からせてもらえた作品でした。


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