ブログdeロードショー「その夜の侍」 平凡とは全力で築き上げるもの

2016.12.22 13:43|映画

その夜の


2012年 監督 赤堀雅秋

鉄工所を営む中村は、5年前に妻をひき逃げ事件で失って以来、無気力な日々を送っていた。一方、ひき逃げ犯の木島は刑期を終え出所したが、しばらくすると匿名の脅迫状が届くようになる。中村の妻の命日に2人はついに対峙することになるが……。


ミロクローゼが不発に終わったので観るのを止そうかと思ったのですが、本当に観て良かった!映画や本、大好きな山にしたって、それぞれ好みが違うのでとにかく自らの目で確かめるしかない。

殺伐とした現代に生きている希薄で孤独な人間関係をあらゆる角度から、多様なキャラクターとエピソードをまじえて作られた、一見の価値ある佳作だと思いました。

堺雅人さんは好きな俳優で映画やテレビは何作か観てきましたが、この役柄はまったく違ったタイプを演じていて、マンネリ化を感じていた私には新境地を開いてもらったようです。ホテトル嬢との絡みで優男の裸体をさらけ出す役者魂にもね(笑)。

糖尿病なのにプリン依存症である健一が、冒頭ではあれほどプリンを浴びるように食べほしていたのに、ラストではプリンをぐちゃぐちゃに握りつぶし誘惑を断ち切り食べなかったシーンにやっと光明が差しほっとできました。妻の留守電を消去した健一はプリンとも決別し前を向いて生きていけそうです。

健一演じる堺さん、木島を演じる山田孝之さんが放つ負のオーラは凄かった!

真面目な「被害者」健一と、手のつけようがないようない「加害者」木島は対極のようですが似た者どうしだったのではないだろうか。人との交流が苦手な人たち。

健一は無口で度の強い眼鏡をかけ他人との関りも避けて孤独に生きている。

一方、木島は思い通りにいかないことを暴力で発散させながらもいつも苛立っているのに、小林(綾野剛)や星(田口トモロヲ)、関(谷村美月)らは彼から離れようとしない・・・。その理由は寂しいからだった。もしかすると、木島は口で言うほど悪ではなかったのかもしれません。

キーワードの様に出て来たセリフ「出来ることなら他愛のない話をしたい。平凡で、昨日観たテレビや何を食べたのかなどの」。ニュースで良く耳にするいじめなどの少年犯罪を思い出しました。中心メンバーの犯人から逃れられずに共に行動し犯罪に手を貸してしまう少年たちー。

映画の彼らは立派な成人だから犯罪に手を貸すことはなく、最後の一線は守られていますが。

義兄である青木が、殴られて生き埋めになりそうな中で、小林に言った言葉が心に刻まれています。「平凡とは全力で築き上げるものだ」。若い頃は嫌で軽んじていた平凡。でも、大人になって平凡ってそう簡単に手に入るものではないと気づかされます。

他愛もない会話ができる日常、他愛もない会話ができる相手。私たちが渇望し手に入れようともがいているのは”平凡な日常”。

最後にひとつ心残りがあります。詩集を売る老人が、包丁を持ちふらつく健一に言ったセリフの謎がとけません。「物語だろう?君には関係ない」。物語とは妻が亡くなった事故を指すのでしょうか?心当たる方教えて下さい。

健一の鉄工所の従業員を演じていた久保(高橋 努さん)の役柄も良かったです。大柄で筋肉質な彼に不似合いな顔を覆って泣くシーン、電話で自分の子供に話しかけるシーン、左手薬指にはめたリングがくっきり際だっていました。

出演者すべての演技が見応えあった作品です。

ケフコさんとは異なった感想になりましたが、リクエストして下さり本当にありがとうございました。

今回もブログdeロードショーに感謝致します!



コメント

答えが見つかった気がします!

おはようございます!
舞台を映画化した作品というのは、映画を観終えてから知りました。
たぶん、私が気に入ったのは演劇を少しかじった人なのからでしょうね。
(お芝居が好きで演劇部に所属していました)

> 私はあれは観客に向けて投げかけられた言葉と受け取りました。
> 所詮はフィクション、あんたたちは皆傍観者、そんな意味合いかと。
> いわゆる狂言回し的な台詞で、いくらかシェイクスピア劇を思わせるプロットのように感じました。

おお、そう!
「狂言回し的な台詞で所詮はフィクション、あんたたちは皆傍観者」でしょう。
ありがとうございました!
やっと喉につかえた小骨が取れた思いです。
同作品を観て、こんなふうにやりとりできるのが「ブログでロードショー」。
それを期待して参加させてもらっているのもありますから、とても嬉しかったです。
コメントありがとうございました。

観客は蚊帳の外

こんにちは。
この作品を気に入っていただけたようで安心しました。
私がこれをブログDEロードショーにリクエストしたのは、一人でも多くの人にこの作品を観て欲しい、そう思ったからです。
この物語が元は舞台演劇だったということを知り、画面の暗さや台詞の聞き取りづらさ、それにラストのただただ醜いだけの文字通りの泥仕合のシーンなど、正直マイナス要素でしかない諸々の理由がわかったような気がしました。
それは、舞台ではできないことを映像で表現したい、ということ。

この映画の監督で脚本も担当している赤堀雅秋という方は、自身が俳優として色々な映像作品に出演しながら劇団を率いています。
つまり満を持してのこの映像化ということ。
物語を隅々まで熟知している者が作った映画ですから、小粒ながらも完成度が高いのも道理ですよね。
ちょっと舞台版も観てみたいなとも思ったのですが、そう簡単なことではありません。
むしろこういう映像ソフトがあるのなら、それを皆に勧めることがより建設的なことだと考えた、というワケです。
ただし積極的にオススメするには、かな〜りハードルの高い作品ですけど。

そういう舞台演劇のことを念頭に置いて考えると、しずくさんの疑問である「物語だろ云々」という台詞もなんとなく手がかりがつかめるのではないでしょうか。
私はあれは観客に向けて投げかけられた言葉と受け取りました。
所詮はフィクション、あんたたちは皆傍観者、そんな意味合いかと。
いわゆる狂言回し的な台詞で、いくらかシェイクスピア劇を思わせるプロットのように感じました。
以上、長文コメント失礼しました〜。

ポールさん、コメントをありがとうございました!

ポールさんの手厳しいレビューは先に読ませてもらっています。

> 「物語」とは、現代思想でよく使われる「大きな物語」という言葉を指しているのだろうとわたしは考えました。
> 「大きな物語」→ http://d.hatena.ne.jp/keyword/%c2%e7%a4%ad%a4%ca%ca%aa%b8%ec
> つまり、ここでは「一般の人間が理解し納得できるような『ストーリー』とは、主人公は関係なく生きている」ということを強調しているのではないかと解釈したのです。
> そう解釈すると、「ここで主人公はじめ登場人物がどんな道理に合わない『普通のモラルやストーリーからすれば破綻しているとしか思えない』ような行動を取っても、それはそういうものなんだから気にしないでくださいね」という監督の「姑息ないいわけ」にしか思えなくなってきて、よけい腹が立ってこの映画についての反感が増してきた、という……。

観終えて、私も『大きな物語』の概要と同じ意味合いを考えました。
だけどそう解釈すると、監督の意図するものが不可解になったので、敢えてそう受け取らない解釈があるのかと
他の方に訊ねてみたかったのです。
”ここで主人公はじめ登場人物がどんな道理に合わない『普通のモラルやストーリーからすれば破綻しているとしか思えない』ような行動を取っても、それはそういうものなんだから気にしないでくださいね」”
ポールさんはこれを『姑息ないいわけ』と弾劾されて酷評記事を書かれた・・・。
私は単に言い訳だけには考えられずに、「寛容」をも含まれているのではないかと思えたのです。
木島も健一も一皮むけば似た者同士、つまり私たちは程度の差はあれ善悪を内に秘めているか弱い生き物ー、
ここで健一が復讐の鬼になって殺しても救われることはないからおよしなさいという意味合いだったのでは?
寧ろ、彼は殺人罪でムショ送りとなり人生を棒に振ってしまいますものね。
そんな考察をしてました。
ポールさんのおかげで、言葉に残す機会を与えられ感謝致します。

> ちょっとバイアスかかっていたかなあ(汗)。

感想ってバイアス気味の方が読み応えがあります。
私だってそうですから!(笑)

No title

「物語」とは、現代思想でよく使われる「大きな物語」という言葉を指しているのだろうとわたしは考えました。

「大きな物語」→ http://d.hatena.ne.jp/keyword/%c2%e7%a4%ad%a4%ca%ca%aa%b8%ec

つまり、ここでは「一般の人間が理解し納得できるような『ストーリー』とは、主人公は関係なく生きている」ということを強調しているのではないかと解釈したのです。

そう解釈すると、「ここで主人公はじめ登場人物がどんな道理に合わない『普通のモラルやストーリーからすれば破綻しているとしか思えない』ような行動を取っても、それはそういうものなんだから気にしないでくださいね」という監督の「姑息ないいわけ」にしか思えなくなってきて、よけい腹が立ってこの映画についての反感が増してきた、という……。

ちょっとバイアスかかっていたかなあ(汗)。

こちらこそ、ありがとうございました!

> 聞きにくかったり、見にくかったり、もうちょっとその辺り
> 改善したら、もっと多くの方にうけるかも?ですね?

皆さん、聴き取りづらかったのですね。
目に比べ耳は良い方ですが、邦画を観る時などセリフが聞き取りにくいので
テレビや音楽の音が聞き辛くなっているのかなと思い込んでいました。
洋画を吹き替えで観て字幕を出したりする時もたまにあるんですよ。

>> 最後にひとつ心残りがあります。詩集を売る老人が、包丁を持ちふらつく健一に言ったセリフの謎がとけません。「物語だろう?君には関係ない」。物語とは妻が亡くなった事故を指すのでしょうか?心当たる方教えて下さい
> 今・見ましたが、0.8倍速で聞きましたが、とても聞きにくく、
> 「き(ひ)ぃつけた~ものがたりだろ~」とか言ってますが

スロー機能もあるんですね!
あ、思い出した。「気い付けろ。物語だろう~」と、私は聞き取ったのでした。
だから何かの暗喩かなと?

> 詩集ですが、志集となっています、4500円、多分自作、売れない(笑)。

そうです、詩集をもじって志集にしたのだろうと解釈して敢えて”詩集”で訊ねました。

関に関して~
返信でmiriさんがお答えになっているように私も理解していたので、もう一度観て確かめました。
やはり、あの部屋には黄色のソファーはありませんね。
木島は彼女を『警備員』としか呼んでいないのに、関は嬉々として手料理まで作ろうとするのよねぇ~。
薄ら寒くて怖いー、彼女が演技してなかったらもっとどぎつくなったかも(笑)
何て計算された演出だろう!

先ほどは、コメントを有難うございました☆

けっこう良い部分のある作品でしたが、
聞きにくかったり、見にくかったり、もうちょっとその辺り
改善したら、もっと多くの方にうけるかも?ですね?

>最後にひとつ心残りがあります。詩集を売る老人が、包丁を持ちふらつく健一に言ったセリフの謎がとけません。「物語だろう?君には関係ない」。物語とは妻が亡くなった事故を指すのでしょうか?心当たる方教えて下さい。

今・見ましたが、0.8倍速で聞きましたが、とても聞きにくく、
「き(ひ)ぃつけた~ものがたりだろ~」とか言ってますが

でも本に火つけたら燃えるし?笑。
詩集ですが、志集となっています、4500円、多分自作、売れない(笑)。
あと、あのシークエンスでは、主人公の手元は映らず、包丁は持っていないかも?です。

映画を見た時には、何言っているか分からなかったから
大した意味のあるシーンとは思わなかったです。
原作とか知らないので・・・。

ご参考にはならなかったですね?
どうもすみません。。。


.

Re: No title

> 堺さんの新境地ですか。確かに、あのホテルのシーンは役者として結構勇気がいりそうです(笑)
> カッコよく映るために肉体改造するのは頑張れても、カッコ悪いままさらけ出すのはね~。それとも役作りのために筋力落としたりしたのかしら?

肉体改造をする時間がないほど売れっ子になり始めていた頃だったのでは?
彼の貧相な肉体だったかろこそ良かったのでしょうね。
その点、安藤さんはナイスボディでしたね。

> あの事故の直前の会話は、間が持たないというか、すごく居づらい空気でした。事故を起こすまでは割と目立たないタイプだったのかなと少し思ったり。おっしゃる通り、中村と似たタイプだったかもしれません。

事故後はひどくなったけれど、元々健一は内向的な気質だったのではないかと思います。
そういう彼が初めて木島に歯向かったから、あの夜は「侍」になれた!
木島にしても、彼の周囲で怖れず媚びずに抵抗した人は、健一が初めてだったのでは?
ある意味、真摯に向き合ってくれたんですね。彼をじっくり観察していたのですから。
これから、2人とも変わるのではないでしょうか?そうなって欲しい!

「物語だろう?君には関係ない」
> 私もこのセリフはさっぱりでした。納得できる回答が得られるといいんですが…。

本当に誰かに教えて欲しい!

No title

>とにかく自らの目で確かめるしかない

その通りですね!
様々な好みがあるから、この世に不要な作品なんてないと思います。

堺さんの新境地ですか。確かに、あのホテルのシーンは役者として結構勇気がいりそうです(笑)
カッコよく映るために肉体改造するのは頑張れても、カッコ悪いままさらけ出すのはね~。それとも役作りのために筋力落としたりしたのかしら?

>人との交流が苦手な人たち。

あの事故の直前の会話は、間が持たないというか、すごく居づらい空気でした。事故を起こすまでは割と目立たないタイプだったのかなと少し思ったり。おっしゃる通り、中村と似たタイプだったかもしれません。

>「物語だろう?君には関係ない」

私もこのセリフはさっぱりでした。納得できる回答が得られるといいんですが…。

2作品目もご参加ありがとうございました♪
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