ホラー2作目 さざなみ
『さざなみ』の原題は“45years”。結婚して長年連れ添った夫婦の時間が45年ということだろう。1通の手紙が引き金となり、ケイトが死んだ過去の女への嫉妬に苦しみ築いた生活を壊していく様が1週間、章ごとに曜日で撮ってある。1通の手紙で45年の蓄積された信頼関係がわずか1週間で崩れていく、これをホラーと云わずに何と呼ぼう。
ケイトを演じているのが、あのシャーロット・ランプリングと知り久しぶりの邂逅に胸躍らせた。「愛の嵐」に残る強烈な印象はナチス帽に裸サスペンダー、そして焦点の定まらない瞳だった。
ケイトにとって、50年前に夫が恋人と登山に行き恋人が事故で死んでいたという話は初耳。屋根裏にしまった古い写真を見て、恋人のお腹には子供が居たことも解った。ケイトとジェフの間に子供は授かっていない。ケイトは「もし彼女が生きていたら彼女と結婚していた」と問い詰める。その質問はタブーだろう。ジェフはこともあろうか「していた」とはっきりと答えたのだ。ジェフさんよ、正直者であれと思いあがるな。妻を思い遣るならきっぱりと嘘をついてあげるべきだった。過去の恋愛は誰だってある、でも過ぎた恋愛話と本音を洩らしたらいけないねぇ。長年夫婦をやっているからと胡坐をかいたんじゃねえの。
疑心暗鬼だったケイトの表情が硬く強張っていくのはこのあたりから。「幸せ」だと思っていた“45年間”は思い込みだったのか、虚ろに映る2人の生活。
ランプリングが巧いんです!
イギリスには結婚45周年を祝いパーティを開く風習があるのだろうか。そこで、ジェフは涙ながらに「様々な選択をしてきた中で、自分にとって“最高の選択”はケイトと結婚したことである」とスピーチする。 今のジェフの心情に嘘がないのは解る。ジェフよ、遅いんだよ、取り返しがつかないの・・・。目の前のケイトに改めて感謝の念が湧いたと言っても、感謝と愛は違うでしょう!?もはやケイトの心は閉じたままで響かない。ケイトの感情を押し殺した冷たい目は不気味だ。パーティのラストダンスで彼女は自分でも思いもよらない行動を取ってしまう。
コメントをやり取りして、後から気付いたことを書き加えます。
感想ではジェフだけをやり玉に上げているように思われるかもしれませんが、取り上げた気遣いは家族や友人、恋人や夫婦、隣人、同僚などの親しい関係を結ぶ相互にあるべきだと思います。慣れ親しんだ間柄になるとありがちな落とし穴。水くさいといわれるかもしれないけれど、線引きが難しくそれを越えるととんでもないことになる。古風な云い回しにある「親しき仲にも礼儀あり」でしょうか。それなりの良識と心遣いが大切で、決して胡坐をかいてはいけないと改めて自戒しました。