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飢餓海峡

2014.01.11 15:47|

1964年製作
 
ブログdeロードショーで取り上げられなければ観ることがなかった懐かしい作品でした。テレビ番組で中村玉緒が八重を演じる触りを垣間観ただけで内容は全く覚えていません。それでも“飢餓海峡”というタイトルと暴風雨で荒れ狂う海が強烈な記憶に残り、八重という娘を体当たりで演じていた女優名を母に訊ねたほどです。彼女をテレビで見かけあの時の女優さんなのかと後に苦い思いもしましたが(笑)。
長い間、私の中では八重は娼婦ではなく、偶然犬飼に出会い想いを抱き続ける初々しい生娘として刻まれていました。当時中学生か高校生だったので恋愛に憧れが強い時期だったからなのか、それとも娼婦を知らなかったからなのか今となっては分かり兼ねます。
それから何十年も経て、今回きちんと映画の「飢餓海峡」を観る機会に恵まれ八重感が崩れました。
八重は一夜の出会いで犬飼からもらった大金で親の治療費と何よりも嫌な商売から足を洗うことができました。(また同職業につかざるを得ないのは皮肉でした・・・)。不幸な境遇から抜け出させてくれた恩人でもあった犬飼に恋慕の情も湧くのは当然ですが、行きずりでもらうにしてはあまりにも多額な金額、しかも弓坂刑事がしつこく聞き込みに来て、彼が追われる身であるのは充分察していたはずです。それなのにお礼を言いたいだけで会いに行くのはあまりにも愚かでした。八重が賢くて本当に善意の人だったら会わずに犬飼の成功を新聞で知るだけで充分だったのに・・・。
八重は不幸な生い立ちを微塵も見せずに明るく心根の優しい無垢な娼婦として描かれていますが、彼女の純粋無垢こそが残酷な結果を生んでしまったと思われました。
 
でも、今回は八重よりも何よりも樽見を演じた亡き三國連太郎と伴淳の素晴らしい演技に目が行きました。
三國連太郎の作品は釣りバカ日誌のスーさんと「ひかりごけ」ぐらしか観ていませんが、この「飢餓海峡」ですっかり変わりました。
クライマックスのラストシーンで樽見(犬飼)は海へ身を投じましたよね。流れから考えて自殺しかないと考えたけれど、もしかすると逃亡を図ったのではないかと疑った私でした。罪を背負って生き抜いて欲しいと願ったほどです。それほど、樽見(犬飼)は摑みどころのない人物として迫力ある男でした。彼は大男として描かれているのにまるで小動物のよう。それは彼のぐりぐりとした野生的な目。狂い始めた運命の歯車に怯えている目、時に間が抜けている鈍重さを覗かせるかと思うと人を食ったようで狡猾さをも潜ませ、成功を遂げた自信たっぷりな男をも演じていました。どれが本当の彼なのか。変貌を遂げる彼に、果たして彼は殺ったのか否かと疑いながらも、一方では彼を信じつつ飽きることなく最後まで魅せてもらいました。
樽見が取調室で喘いで言った「あの時点で私が出頭して事情を説明しても誰も信じなかった」というセリフこそ、悲しい真実だったと思います。
私は、樽見(犬飼)の自供通り、前半の放火強盗殺人には巻き込まれただけで網走帰りの2人も殺していないと信じます。
ここで映画の始まりの演出が光ります。質屋から出て来た網走帰り2人が放火後の質屋を後にして、「顔を見られるとヤバい」からと函館迄の汽車の切符を犬飼に買わせ彼は言われるままに躊躇なく買いに行く。観客には3人の関係性はグレーのまま。台風による連絡船沈没遭難事件のどさくさに紛れて騙し取ったボートで荒海へ漕ぎ出す。2人が海へ投げ出されるボートでのシーン。助けられなかったという後悔する樽見が嘆く場面などをつなぎ合わせると、自ずと観客には犬飼の自供を裏付けられることになります。しかし、犬飼の自供でしか語られず刑事達からすると疑わずにはいられない余地も残ります。観客は自分の判断は間違っていないかどうか、樽見(犬飼)はいったい白か黒かとはらはらしながら観ていくしかない。裁判劇を見ているのと同じ手法で事件を解決していくような高揚感を味わいました。
コメディアンとしてしか知らなかった渋い伴淳さんの弓坂刑事も良かったです。
若かりし健さんにも出会えて愉しかった!
 
背景が私自身が出生した10年前後だったこともあり、その頃の社会や世情、暮らし向きなどにも興味深く見入りはまりました。この時代にこれほど傑出した作品があったことを知り本当に良かったです。
勧めて下さったポール・ブリッツさんに心から感謝いたします
 
 

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