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とめどなく囁く

2019.06.13 14:47|
一番近くにいるのに誰よりも遠い。
海釣りに出たまま二度と帰らなかった夫。
8年後その姿が目撃される。そして無言電話。
庸介は生きているのか。
塩崎早樹は相模湾を望む超高級分譲地「母衣山庭園住宅」の瀟洒な邸宅で歳の離れた資産家の夫と暮らす。前妻を突然の病気で亡くした克典、 前夫を海難事故で亡くした早樹。互いに配偶者を亡くした者同士の再婚生活には悔恨と愛情が入り混じる。そんなある日早樹の携帯が鳴った。もう縁遠くなったはずの前夫の母親からだった。自分がやったことはブーメランのように自分に返ってくる。
待ちかねた本書を手にしページをパラパラとくると二段組構成で450ページ! 最近は目に配慮して小さな活字を極力避けて来たので思わずひるんでしまう。うらめしく思いながら読み始めたが、いつのまにか小さな字は気にならなくなっていた。
克典が瀟洒な邸宅の庭園に据え置いた巨大な彫刻のオブジェは、先日読んだ「肖像彫刻家」を彷彿とさせた。彫刻には魂が宿るー、大きな耳の形をした彫刻から海難事故で亡くなった庸介の声が聴こえてくるのだろうか?
庸介に似た影が出没するたびに、果たして彼は生きているのかどうかが気になって続きを読み急ぐ。
本作に登場する早樹と同い年の女性が3人。克典の前妻との末娘・真矢、嫁の優子、早樹の学生時代からの親友で気難しい美波。人生半ばの40代女性が互いの主張をぶつけあい喧嘩しながらも立場を超えてわかりあえる瞬間がある。女同士でないと理解できない心情に同調する。単純に敵同士でいがみあう関係にならないはずと安心して読める作家さん。
読み終えて、今度は、早樹が邸宅を真矢に譲りマンションで暮らすにしてもずっと克典と暮らすのだろうかと気になった。

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